雑記

趣味の文学

クスッと笑える詩や俳句

 つい先日、岩波文庫から出ている『文選(1)』を購入した。というのも、出だしで紹介されている詩が心にグッときたからだ。

  獺有り獺有り

  河の涘に在り

この箇所は「カワウソ、カワウソ。川のみぎわにいる」と現代語訳されている。中国にもカワウソはいるんだな、と思いを馳せる機会はそう無いはず。まして、吉田戦車伝染るんです』好きの筆者には、どうしてもかわうそ君のほうが先に頭をよぎる。詩の良し悪しの基準はよくわからないけれども、個人的にクスッと笑えるこの詩には好感を覚える。

 味を占めて『唐詩選(上・中・下)』も購入したが、こちらは未だ可愛げのある詩と巡り会えていない。『文選』1巻以降も含めて、これからの詩との出会いが楽しみだ。

 日本に話を移すと、芥川龍之介の俳句は腹を抱えて笑えるものが多い。これまた岩波文庫から加藤郁乎編『芥川龍之介俳句集』が出版されている。以下、何度読んでも笑える作品をいくつか挙げる。

  水さつと抜手ついついつーいつい

  魚の眼を箸でつつくや冴返る

  秋風やもみあげ長き宇野浩二

萩原朔太郎は「小説家の俳句」のなかで芥川の俳句を酷評している。そりゃそうだろうな、と思う反面、芥川自身は「文芸的な、余りに文芸的な」のなかで森鴎外の俳句は「何か微妙なものを失つてゐる」と評する。彼曰く、鴎外の俳句には心に迫ってくるものがないらしい。よく言うわ、と思うのは筆者だけではないはず。個人的に森さん(なぜか呼び捨てできないのが不思議)のは、かちっとした短歌や俳句といった印象を抱いている。『唐詩選』にありそうな、技巧派と言えばいいのだろうか。専門家ではないから何とも説明しがたい。少なくとも、芥川とは正反対だという印象を抱く人が多いだろう。

 天武天皇が詠んだ歌で「よき人の よしとよく見て よしと言ひし 吉野よく見よ よき人よく見つ」がある。なんやねん、と思わずツッコミを入れたくなる歌だ。昨日まで、この歌を越える「なんやねん歌」はないだろうと思っていたが、出会ってしまった。「やがていそいそいその海 潮干に乾く暇もなき しめりがちなるアメリカを いつかはあとにミナカタは」という、南方熊楠の友人が彼に贈った歌だ。

 天武天皇の歌と同様に、歌の巧さとは何なのか考えさせられる。言葉遊びを取り入れた歌は個人的に大好物だが、この「やがていそいそいその海」のリズム感にはつい笑ってしまう。どうしてだろう。加えて、この友人は南方曰く「年は1個違いで美少年。頭も良くて剛胆なところもある」云々。そんな人物像も知ってしまうと、この歌の持つ愛らしさがより強く感じられる。

 また何か面白い詩や俳句を見つけたら、ここに記したい。